【チャンク】スピーキング力の決め手は「小さな英語」



■ あなたがスピーキングが苦手な理由



2006 年から TOEFL にスピーキングが取り入れられるなど、英語でのオーラルコミュニケーション能力が求められる機会はますます増えています。一方で、「読み書きは何とかなるけど、しゃべるのはさっぱり」というのが多くの英語学習者の現状でしょう。

それでも、帰国子女でなくても英語のスピーキング能力に長けた日本人はいます。そんな彼らの多くがスピーキングのコツについて、「英語で考えなくてはならない」 といいます。

「英語で考える」とは実際どういうことなのでしょうか?

「英語で考える」と対極にあるのが、実は「日本語⇔英語の翻訳」を行う、英作文です。学校でテストにでる英作文は、「日本語の一文」があって、それを対応する「英語の一文」に置き換えますね。スピーキングは英作文と同じくアウトプットではありますが、「英作文の話すバージョンがスピーキング」と言えません。英作文とスピーキングには、決定的な違いがあります。それはアウトプットの処理単位です。

英作文のアウトプット単位は、「推敲を経て完成された一文」です。読者に提供するときすでに、かっちりとした構造のできあがった完成品となっています。これに対し、スピーキングでは「文よりも小さな、意味を持つ塊」がアウトプットの単位となります。つまり、話し手は、「完成した一文まるごと」をポン、と提示するのではなく、より小さな「意味の塊」をリアルタイムに処理し、発信していきます。

このような「意味の塊」のことを、『チャンク(chunk)』といいます。チャンクは、話し手・聞き手にとって「意味」の塊であり、「思考」の固まりです。話し手は、チャンクを、ライティングに比べるとゆるやかな文法構造でつなぎ合わせ、全体的な意味を構成してゆきます。このプロセスこそが、「英語で考える」ということの根幹にあります。

ネイティブであっても、何か話し始めたときに、文の終わりまで考えてから話し始めているわけではありません。次の文章を見てください。Life as a Tall Girl という New York Times の記事からの抜粋です。この記事を書いたのは、6フィート4インチ(約 193 センチ)ある女性で、子供の頃あまりに背が高かったので、遺伝病ではないかと心配されて病院に連れて行かれた思い出について述べています。

Shortly after my birth, my parents and doctors started to worry that there was something wrong with me. From infancy though high school, my parents took me to specialists for X-rays, blood and bone tests and ultrasounds to try to discover the cause of my extreme height. In the end, however, I had no disease or syndrome.

(私の誕生後すぐに、両親と医師は私に何か悪いところがあるのではないかと危惧し始めました。幼児期から高校時代を通して、両親は私を専門家のところへ連れて行き、レントゲンや血液検査、骨の検査、超音波検査を受けさせ、私の異常に高い身長の原因を見つけようとしていたのです。しかし結局は、私は何の病気にも罹っていなかったのでした。)

この文章と、この著者が受けた New York Times のインタビューでの会話とを比べてみましょう。以下は、インタビューの一部のトランスクリプトです。(三点リーダは、いいよどみを表しています。)

Ever since I can re ... remember, I was going to like ... a specialist in the children hospital, I was just sorted for bunch of different syndromes that ... some of the synptoms are ... tall, long fingers and long toes, stuff like that ... and Marfan syndrome, Soto's syndrome ... stuff like that. I spent a few nights in the hospital, getting tested ... and in the end, you know, I'm totally healthy ... just, I'm just tall, you know.

(私がおぼ…覚えている限りでは、私は、子供の病院へ…専門のお医者さんに通っていました。私はいろんな病気を疑われていて、…たとえば、症状としては、背が高いだとか、長い指とか、長い足の指だとか、…そういったことです。そう、Marfan 症候群や Soto's 症候群とか、…そういったもの。私は病院で何日か過ごして、テストを受けました。…で、結局、そう、私はぜんぜん健康でした。ただ、そうただ単に背が高いってだけ、ええ。)

この後のインタビューからの抜粋には、最初の記事にはない特徴がいくつもあります。青字で示された部分は、いいよどみ言い直し繰り返し、そして、文全体としては文法的に不調和な箇所など、スピーキングによく見られる特徴です。これらが示している事実は、「ネイティブは、文全体を考えてから発話しているのではなく、文の部品を追加し、時には軌道修正しながら全体の意味を構成しているのである」ということです。スピーチの超名手でもない限り、最初の記事のような完成された構造の文章は口から出てきません。実際のスピーキングは、もっとつまったり、ちょっとつじつまがあわなかったりしているものです。私たちが、日本語で考えながら話すのと同じです。

「文を頭の中で完全に作ってから発話しよう」、というのでは、いつまでたっても英語を使って、相手とスムーズなコミュニケーションをとれるようにはなりません。これは、脳の記憶システムのためです。

脳の記憶システムは、短期記憶と長期記憶で構成されています。短期記憶は、アクティブな情報の解析を司っています。コンピュータで言えば、メモリが短期記憶、ハードディスクが長期記憶です。短期記憶は、メモリと同様にキャパシティが非常に限られているので、ある一文すべてを飲み込んでから、全体を解析する、ということができません。また、できたとしても解析作業だけで記憶容量が手一杯になってしまうので、表現すべき思考そのものに対しては手薄になってしまうのです。(英語で話している間は、日本語で話すよりもたいしたことが言えないような気がするのは、そのせいです。)

これは、スピーキングだけではなくリスニングでも同様です。リスニングで、文全体を聴き終わってから意味をとろうとしても、最初に聞いた分はほとんど短期記憶に残っていません。チャンク単位の意味を順番に解析していくことで、より大きな意味を構成します。

学校で習う英作文をスピーキングにそのまま移行しようとするのは、効率の悪いやり方であることがおわかりいただけたでしょうか?「一文まるまる翻訳」式では、スピーキングは苦痛でしかなく、苦手意識だけが育ってしまいます。スピーキングの向上のためには、チャンクという「英語で考える」単位を扱えるようにならなければなりません。

それでは、具体的に『チャンク』とは、どのようなものかを見てみましょう。

■ オーラルコミュニケーションの鍵は『チャンク』



チャンクは、たいてい2つ以上の単語で構成されており、それそのもので「意味の塊」となります。チャンクには、二つの種類があります。

(1) 句・節単位の区切りによるチャンク
… 文法的な区切りによるチャンク。
例: the tall man (名詞句) / gave up (動詞句) / at the end (副詞句)

(2) 慣用的な区切りによるチャンク
... 拒絶、依頼などの慣用表現を区切りとするチャンク。句・節単位の区切りよりも大きいことが多い。
例: Do you mind if ... (依頼)/ I'm sorry, but ... (拒絶)

上記で、「スピーキングにおける文全体の文法はゆるやか」とありますが、スピーキングでは文法が不必要、というわけではありません。チャンク同士の連結はゆるやかではあっても、チャンク内ではしっかりと文法が守られているからです。

英語を使いこなすためには、文全体の翻訳ではなく、このチャンクという小さな英語の単位をしっかりとくみ上げ、それらをつなげていくことで全体の意味を構成できる、という技術が必要になります。このようにチャンクをつなげていく技術のことを、『チャンキング』といいます。


このサイトでは、オーラルコミュニケーション能力をあげるためのチャンキングについて解説していきます。次回は、チャンクの分類についてもう少し詳しく説明していこうと思います。




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このページは、Rickoが2008年4月10日 23:00に書いたブログ記事です。

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