【チャンク】名詞チャンク:前置修飾(1) 限定詞


前回の記事は、名詞チャンクの要素について解説しました。名詞チャンクは、名詞を核として、前方・後方からの修飾を含む意味の塊です。今回の記事から、名詞チャンクの中でも比較的理解しやすい、前方からの修飾「前置修飾」について解説します。


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■ 前置修飾の三つの要素



名詞の前に置かれる修飾詞を「前置修飾」と呼びます。前置修飾には、次の三種類があります。名詞の前には、 (1) から (3) の順に並びます。

(1) 限定詞 限定詞は、修飾する名詞の概念の「範囲」を特定するものです。名詞が、「既知」「未知」「所有」など、情報のカテゴリをしぼりこむ役割を果たします。 a、the、my、their、all、...
(2) 数詞 数詞は、修飾する名詞の数を指定します。この数詞によって、名詞が単数形であるか複数形であるかが決定します。不加算名詞や、名詞を概念的にとらえる場合には、数詞は使えません。 one、two、several、double、...
(3) 形容詞/現在分詞
/過去分詞
形容詞は、名詞を自由に修飾することができます。動詞の現在分詞(-ing)、過去分詞(-ed)は形容詞と同様に扱うことができます。なお、形容詞および分詞に前置詞などがついて二語以上になる場合は、名詞の後におく後置修飾となります。 tall、interesting、attracted、...

それでは、前置修飾の三つの要素を順に解説していきます。まずは、名詞チャンクのトップを飾る限定詞です。



■ 限定詞: a と the と所有代名詞/ 's



限定詞は、一見地味なようでいて、会話の自然な流れや理解のためにかかせない要素です。限定詞は名詞チャンクの最初の要素となり、続く名詞の概念の範囲を限定する役割をもっています。

会話の中で、聞き手は無意識に次に来る情報を予測しようとしています。(予測といっても実際は一瞬の無意識の判断となりますが。)先に来る情報を正しく理解し、あらかじめ次の予測を立てることで、次に受け取る情報をより理解しやすくなります。「名詞の概念の範囲を限定する」ことで、聞き手に予測をたてやすくさせるのが限定詞の働きです。

では、「概念の範囲を限定する」とはどういうことでしょうか?限定詞的な用法は日本語にもありますので、そちらを例に見てみましょう。たとえば、「あの子ってキレイだよね。」という発話に含まれる、「あの」には「私もあなたも知っている、既知の情報ですが」という意味が含まれています。「あの」が、続く「子」という情報を「既知」というカテゴリにあらかじめ分類しているのです。これが、「概念の範囲を限定する」ということです。

限定詞には、冠詞、不定冠詞などいろいろな種類がありますが、ここでは一番混乱しやすい三つ、「a と the と所有代名詞/ 's」を挙げて比べてみましょう。これらの三つのどれを選択するかで、続く名詞の意味合いがかなり変わってきます。


1. 不定冠詞の「a」

不定冠詞である 「a」 は、「たくさんの同種の中のどれかひとつ」という名詞の修飾に使います。

たとえば、a computer は「世界中にあるコンピュータの中の、どれか一つ」という意味です。I bought a computer. といえば、「(いろいろあるコンピュータのうちから、特にどれとは指定しない、ある)コンピュータを買った」という意味に解釈されます。

a は「ひとつの」という数まで特定するので、通常一緒に数詞を使うことはありません。この意味のために、a は数えられない名詞(不加算名詞)には使われません。

文法書で、不定冠詞の a の用法の一つとして「猫(というもの)」という「一般的な概念」を表す、と説明されていることがあります。これも根本にある考え方は同じです。a cat「たくさんいる猫の内から無作為に選び出した、猫としての代表」ということです。

  • A whole turkey is too much for three.
    (七面鳥一羽丸々は、三人には大きすぎるよ。)
    ※ a whole turkey = 「たくさんいる七面鳥のどれでもいい丸一匹」
  • Boil and peel an egg.
    (卵ひとつをゆでて、殻をむきなさい。)
    ※ an egg = 「たくさんある卵のどれでもいい一個」
  • What do I need to know to write a paper?
    (レポートを書くのに、知っておくべきことはなんですか。)
    ※ paper は通常不加算だが、「(大学等の)レポート」という意味では、数えられる。

2. 定冠詞の「the」

定冠詞である 「the」 は、「既知である、または世界にひとつしかない、あの」という特定された名詞に使います。the の根本的な意味は、「...といえば、ああアレだな」という特定が話し手と聞き手の間で共通認識となっている、ということです。

たとえば、the computer といえば、「あのコンピュータ」となり、話し手も聞き手も「どのコンピュータ」を指すのかわかっている状態です。ここで、まだ話題となっていないのに the computer (あのコンピュータ)といってしまうと、what computer? (どのコンピュータのこと?)となってしまうわけです。

また、the sun (太陽)のように、「もともと世界にひとつしかないもの」に対しては、無条件に the が使われます。(ほとんどの固有名詞を除く。)

  • "Who's she?" "The girl is a new assistant professor. She started working this week."
    (『彼女は誰だい。』『あの女性は新しい助教授だよ。今週から働き始めたんだ。』)
    ※ もうすでに話題にでている女性なので、the で限定する。
  • In Japan, April is the beginning of a school year.
    (日本では、四月は学年の始まりです。)
    ※ 「何の」始まりか、を of a school year で限定している。「学年の始まり」が表す概念は、ひとつしかないので beginning には the を使う。
  • He is the president who signed the No Child Left Behind Act.
    (彼が No Child Left Behind 法に署名した大統領です。)
    ※ who signed ... で限定しているので、president には the を使う。

3. 所有代名詞/ 's

所有代名詞(my、his、our、...)や所有の「's」は、「...の所有物の全て」という意味の名詞修飾に使います。ここで気をつけておくべきなのは、この限定詞が日本語の「...の」と完全に対応していないということです。

たとえば、my friend は「私の友達の一人」ではありません。「『私の所有物』というカテゴリ内にあてはまる全ての『友達』」という解釈となりますので、単数である friend をとった場合の my friend の意味するところは、「私の友達は一人であり、そのたった一人の友達」となります。日本語でいう「私の友達」に相当するのは、one of my friends です。(ただし、いったん話にでた one of my friends は、その後の文章では my friend としてもかまいません。)また、my friends と複数形である場合は、「私に友達は二人以上いて、その友人全員」という意味になります。

  • His ex-wive is angry with him for not paying child rearing expenses.
    (彼の離婚した妻は、養育費を彼が払わないので怒っている。)
    ※ his ex-wife =「彼の離婚した妻は一人であり、その一人の前妻」
  • Her kitchen is always messed up after she cooks.
    (彼女が料理した後は、台所はいつもちらかっている。)
    ※ her kitchen =「彼女の所有する台所は一つであり、その一つの台所」
  • The author's books have been printed in many different languages.
    (その著者の本の数々が、さまざまな言語で出版されている。)
    ※ the authoer's books =「その著者の書いた本は二冊以上あり、その全ての本」

他にも、all や half など、限定詞に該当するものがいくつかありますが、その詳しい解説はいずれ別記事にて行いたいと思います。


■ 限定詞の使い分けに、絶対のルールはない!



限定詞自体は、内容にかかわる重要な意味をもつ要素ではありませんが、的確に使われていないと、聞き手のスムーズな理解の障害になります。上級者であっても、この限定詞を使いこなすのは難しいとされています。気長にやっていく気持ちで見ていきましょう。

限定詞は、多くの文法書で「この状況なら、この限定詞」と分類されてはいますが、本来は上記で述べた基本の概念が全てです。この基本の概念を元に、解釈を広げた用法が別々に紹介されているだけです。

限定詞に関して理解していただきたいのは「どの限定詞を使うかは、その文脈に依存する」ということです。以下の例文を見てみてください。

  1. He's reading a newspaper.
  2. He's reading the newspaper.
  3. He's reading my newspaper.

上記の例文はどれも、「彼が新聞を読んでいる」ということですが、それぞれのニュアンスはまったく違います。(a) は「特にどれとは限定しない一部の新聞」であり、「彼が新聞を読んでいる」の訳のとおり、彼の行動が中心です。(b) は「すでに相手も知っている、あの新聞」であり、新聞の話題が以前に出ている前提で、新聞に対する注目も少し高めです。文章の訳は「彼があの新聞を読んでいる」となります。(c) は「本来は私が所有している新聞」ですから、「私が読もうとしていた新聞を勝手に読んでいる」ともとれますし、「私が作った新聞を読んでくれている」とも解釈できます。

このように、この例文では a も the も my も使えますが、どれを選択するかは表したい意味によって話し手にゆだねられています。もう一つ、限定詞と文脈の関係を示している例をあげましょう。

「関係代名詞のかかる名詞は the で修飾しなくてはならない」、と学校で教わった記憶がある方も多いでしょう。しかし実際は、関係代名詞以降の内容で完全に修飾する名詞を特定できない場合、a が限定詞に使われます。以下の例文を見てください。

  1. He is the athelete who medaled in Sydney Olympic.
  2. He is an athelete who medaled in Sydney Olympic.

(a) の文では、「Sydney Olympic でメダルを取得したのがどの選手であるか」は、既知の情報であることが推察されます。ここで the を使っているのは、関係代名詞節の説明で「あの選手」と特定することができる、ということだからです。一方、(b) では、メダルを取得した選手が何人もいて、彼は「そのうちの誰か一人」である、ということを示しています。(b) では関係代名詞節は、「あの選手」と特定するための決定打とはならない、ということがわかります。関係代名詞で修飾してある名詞であっても、どの限定詞を選択するかは、微妙な状況によって変わってくるのです。

限定詞の使い分けの上達には、多くの英文サンプルを見て、「なぜここではこの限定詞が使われているのだろうか」と考えてみることが大切です。多くのサンプルを意識的に観察することで、徐々に限定詞に対する感覚が磨かれていくと思います。


明日は、前置修飾の数詞について、解説します。




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このページは、Rickoが2008年4月23日 22:00に書いたブログ記事です。

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